保育士なら知っておきたい、公立保育園民営化のメリット・デメリットとは?

2000年を過ぎた頃から始まった公共施設の民営化は、公立保育園にも及んでいます。令和に入った今でも民営化は少しずつ進められており、毎年のように民営化される保育園があります。

実際のところ、公立保育園の民営化とはどんな施策なのでしょうか。この記事では、民営化のメリットやデメリットについて、児童や保育士、保護者や行政の立場から考えてみたいと思います。

移管と委託、民営化にも違いがある?

民営化には、委託と移管があります。それぞれの違いは以下の通りです。

「移管」は、これまでの公立の保育施設を廃止し、民間業者が私立の保育施設を新設することです。同じ建物を使用したとしても、運営母体が完全に別のものに切り替わります。

一方で、委託は公立の保育施設の運営を民間業者に任せることです。表向きは公立の保育施設で、経費も自治体が負担します。

公立保育園が民営化する際は、多くのケースで「移管」が行われます。これまでの公立の保育所は閉鎖され、新たに私立の保育所に切り替わるのがほとんどです。

では、民間企業に移管すると、どうなるのでしょうか。メリットやデメリットに触れていきましょう。

民営化のメリット

まずは民営化されることでのメリットです。

サービスの多様化、充実

民営化の最大のメリットはサービスの多様化です。これまで公立の保育園は、どの保育園も判で押したような似通ったところがありました。それはこれまで自治体が保育方針を定めていたからです。

運営費が公費で賄われ、認可基準を満たす必要などもあるため、保守的な運営をする保育所がほとんどといっていいでしょう。

民営化されれば、保育方針は私立保育園が決定できます。独自のカリキュラムを作ったり、モンテッソーリやシュタイナーなどのメソッドを用いたりする保育所が現れる可能性もあるでしょう。

  

早朝夜間、休日保育が可能に

運営方法も比較的自由になります。働く職員も地方公務員ではなくなるため、早朝や夜間、休日にサービスを提供することも容易になるでしょう。保護者の中には、夜間や日祝日に働く人もいるため、受け入れ時間が長くなることは大きなメリットです。

送迎サービスの開始

現在、公立保育園の多くは送迎のサービスを行っていないようです。しかし、民営化されれば送迎が可能になります。保護者にとっては朝夕の送迎も重労働です。民営化されて送迎サービスが始まれば、生活がとても楽になるでしょう。

 

保育者の意見が反映されやすくなる

公立保育園の民営化は、保育者にとってもメリットがあります。

公立保育園の場合、慣例などに従って保育を行ったり、イベントを行ったりすることが多く、保育士たちの意見が反映されることは多くありませんでした。

しかし、民営化されれば、保育者の意見は反映されやすくなります。もちろん運営会社によって風土は違いますが、比較的風通しのいい職場環境になるでしょう。

自分の意見が採用される喜びを感じられれば、保育者にとってやりがいを感じやすくなります。これまで以上に経験の幅も広がるはずです。

浮いた財源を他の施策に充当できる

そもそも、国が推し進めてきた公の民営化は、主に財政負担の軽減が目的です。待機児童が多ければ施設を作り、児童が減れば廃園にすることができるため、無駄がないのがメリットです。

民営化によって浮いた財源は、他の子育て支援に充当でき、保育園以外の保育サービスを充実させることができます。

民営化のデメリット

公立保育園の民営化のデメリットを見ていきましょう。

職員が入れ替わることによる子どもへの負担

公立保育園が民営化するということは、働く職員もすべて入れ替わるということです。通う子どもたちにとっては、慣れ親しんだ保育者が一人残らずいなくなってしまうことになります。

子どものメンタルに大きな影響を与えることでしょう。中には不調を訴える児童もいるかもしれません。

経営の安定性にも影響

公立の保育園なら、運営母体が自治体となるため、突然閉園になったり、リストラにされたりする心配はほぼありません。ただし、民間の企業が運営母体となれば、経営の安定性は不透明です。

長く腰を据えて働きたいと思っても、閉園になったり、リストラされたりするリスクがあります。

特別な支援が必要な家庭や児童の受け入れができない

地域にはさまざまな事情のある児童が暮らしています。発達障害等の特別支援が必要な児童や、ひとり親家庭等、個々に対応が必要な家庭もあるかもしれません。

ただ、民営化されてしまうと、一部の児童のために特別な対応を取ることが難しくなります。経営の不安定さから職員を配置できず、支援が必要な子どもの受け入れを拒否する例も出てくるでしょう。

営利主義になり、児童より保護者の意見が優先される

民営化されれば、事業の採算がとれるように運営することが大切になります。すると、営利主義に流れる保育施設が増え、児童の利益よりも保護者の利益が優先されるようになるかもしれません。他の保育園との競争により、サービスが過剰になる可能性もあります。

保育士は、児童の代弁者となる役割もあります。

しかし、営利主義になれば、保育者が保護者と対等な立場で助言したり、ときには注意したりすることもできなくなります。表面的な満足度を上げることに注力する施設もあるでしょう。

保育の質の低下

利益を考慮しなければならなくなることで、効率化や生産性を重視するようになります。すると、行事やイベントを取りやめたり、今まで利用できた資材が使えなくなったり、児童の経験の幅が狭まる可能性があります。

人件費を削減すれば、ギリギリの職員配置が日常的になり、子ども一人ひとりに向き合うことが不可能になるでしょう。体制として、保育の質が低下してしまう原因になります。

少子化による撤退リスク

効率化や生産性を重視するようになると、児童が少ない地区の保育園は採算が合わなくなります。すると、保育施設を廃止することにもなりかねません。校区から一切の保育施設自体がなくなる可能性もありえます。

ベテラン保育士の不足

公立保育園の保育士は、毎年給与が上がっていきます。私立の施設と比べて給与水準もよく、高待遇なのも公立保育士が人気の秘密です。

公立保育園では、この給与形態のおかげでたくさんのベテラン保育士を確保し続けることができました。

しかし、民営化されれば、私立の保育施設同様、人材の確保が難しくなります。すぐに転職してしまえば、いつまで経っても人材が育たず、保育の質を担保できなくなるでしょう。

経験のなさから発達障害の子どもへの対応が不適切であったり、危険予知が十分にできなかったり、食物アレルギーの対応に漏れがあったりと、トラブルが発生する可能性もあります。

今後も民営化は進んでいく

神奈川県横浜市の例では、令和4年度に4施設、令和5年度に3施設を民営化しています。これまで合計で66施設の公立保育施設を民営化しており、最初に民営化した2004年からはすでに長い年月が経ちました。

大阪市では令和7年度に3施設を民営化することが決まっており、地域差はあるものの、民営化はたえず進められている印象です。

民営化をめぐる課題

行政の責任放棄だ、保育の質が落ちる、営利目的の運営に不安があるなど、民営化を巡る反応は反対多数です。民営化はメリットもあるかもしれませんが、少子化が叫ばれるなか「地元から保育園がなくなるのでは」という不安に常にさらされてしまいます。

また、反対派が危惧するデメリットは、いずれも解消すべき課題ばかりです。今後民営化が増えるにしても、デメリットや懸念点を解消する必要は必須と言えるでしょう。

児童の権利を優先して保育の質を確保することはもちろん、持続可能な運営をすることが理想です。この理想を理想に留めず、実現できるよう、行政は民間の保育施設をサポートしていく必要があります。

まとめ

公務員保育士は、比較的高待遇で安定して働けるメリットがあります。

ただし、今後は働く公立保育園が減っていくため、これまで通り安定して働けるかどうかは、自治体の方針によって違います。
これから公務員試験を受ける方は、自治体の方針を確認したほうが良さそうです。

すでに公務員保育士として働いていて、職場の保育園の民営化が決まった方は、移管に向けての準備が大変になります。民営化後の子どもたちの様子が心配ですが、新しい環境にスムーズに移行できるよう、取り計らっていきましょう。

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